英日対訳ミュージシャンの本

ミュージシャンの書いた本を英日対訳で見てゆきます。

「マルサリス・オン・ミュージック」を読む 第6回

第6回:第2章  聴きどころを逃さずに:形式について 

 

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これを実際どうするのか、メイン主題で見てゆこう。メイン主題は四小節間、バイオリンで演奏される。譜面を見て分かる通り、この主題の最後二小節のところで、メロディは上下する(譜例6a)。作曲したプロコフィエフは、この上下する動きを使い、ちょっと形を変えたメロディを作った。メイン主題と関係はあるけれど、全く同じというわけではない。自転車のシートをハンドルを新しくして、色を塗り替えたようなものだ。同じ自転車だけれど、見た目が変わっている、みたいな、ね。メイン主題の形を変えて、バイオリンではなく、フルート、オーボエバスーンで演奏している(譜例6b、CD26曲目)。 

(語句・文法:数字は行数) 

1.Let's explore how this is doneこれがどのように行われているか見てみよう:疑問詞節(how this) 5.Prokofiev uses this up-down motion to invent a slightly different melody, related to our main theme but not exactly the sameプロコフィエフはこの上下の動きを若干異なるメロディを作るために使っている。そのメロディは私達のメイン主題と関係はあるが全く同じというわけではない:不定詞(to invent) 過去分詞・非制限用法(melody, related)  

 

メン主題のことが分かったところで、次は第二主題について。でもここで、大切なポイントを一つ。第二主題は、初めに出てきたメイン主題の五度上の調だってこと。この、「調が変わる」というのは、ソナタ形式の一番の特徴なんだ。 

 

調の違いは、説明よりも、実際に聞いてみる方が、ずっとわかりやすい。合唱をしている人達がいたとする。一人でも異なる調で歌っていれば、すぐに気づくだろう。その人だけ聞けば良いかもしれないけれど、他の人達とは調和しないだろうからね。調は12個あって、それぞれアルファベットの文字で名前が付いている。そして一つ一つの調は、大きなホテルの一つ一つの部屋だと思ってみてくれ。曲を演奏するにせよ、作曲するにせよ、ある調から別の調へと移ってゆくわけで。ホテルの中で部屋から部屋へ巡り歩いてゆくようにね。各々の部屋の広さは同じだが、中にあるものが各々違っている。その違っているもの、とは、♭(フラット)そして♯(シャープ)と呼ばれるものだ。音を上(♯)や下(♭)へ変化させることで、新しい音が得られるんだ。そしてこの新しい音が、異なる調をもたらしてくれる。ロ調があれば、変ロ調があったり、ヘ調があれば嬰へ調がある、等々。 

(語句・文法:数字は行数) 

20.It's much easier to hear keys than to explain them調は説明するよりも聞く方がずっと簡単だ:仮主語(It's much) 不定詞(to hear to explain) 21.you can immediately tell when someone sings in a different key from everybody elseいつ何者かが他の皆とは違う超で歌うか君はすぐに言うことが出来る:疑問詞節(when) 23.What he or she sings may sound good on its own, but it won't be coordinated with what everyone else doesその人が歌っていることはそれ単独なら上手に聞こえるかもしれないが、それは他の皆が歌っていることとは調和されないだろう:関係詞(What he or she sings what everyone else) [p63,1]There are twelve keys named for different letters of the alphabetアルファベットの異なる文字で名前が付けられた12の調がある:過去分詞(named for) 7.What's different is something called flats and sharps異なっているものはフラットとシャープと呼ばれている:関係詞(What's ) 

 

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この曲のメイン主題はニ長調だ(譜例6)。第二主題へとたどり着くには、五段階段を上がりイ調へ行く。五段がどれくらいの跳躍か?「きらきら星の歌」を歌ってごらん。最初の「きら」と二番目の「きら」の間が五段だ。 

(語句と文法:数字は行数) 

13.To get to the second theme, we journey up five steps第二主題へたどり着くためには私達は五段会談を登る:不定詞(To get) 17.If you want to know what a leap of five steps sound like, sing “Twinkle, Twinkle, Little Star”もし五段の階段がどの位のモノか知りたいなら「きらきら星の歌」を歌え:不定詞(to know) 疑問詞節(what) 

 

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音楽の専門家でなくても、楽譜を見れば、この二つの主題の聞こえ方が異なるってことは、ちゃんとわかる。メイン主題は、沢山の音符が密集しているのに対し、第二主題の方は、音符と音符の間の音の高低が、メイン主題よりも、うんと広いんだ。 

(語句と文法:数字は行数) 

1.You don't have to be a musician to see from the scores that there two themes will sound differentこれら二つの主題が異なって聞こえるであろうことをスコアから見て取るためにはミュージシャンである必要はない:不定詞(to be to see) 3.The first theme has more notes crowded together最初の主題はより多くの音符がお互い込み合って存在している:過去分詞(crowded) 

 

主題提示部をコンパクトにしたものを聴いてみよう。メイン主題から第二主題へ移り変わるのがわかるかな(CD28曲目)。 

(語句と文法:数字は行数) 

6.Listen to an abridged version of the Statement section主題提示部の縮小されたバージョンを聴け:過去分詞(abridged version) 

 

この二つの主題が、ソナタ形式を持つこの曲の主題提示部で心臓部になるんだ。でもちょっと待って!主題から主題へ移り変わる方法を忘れちゃいけない。これを「経過部」と言うんだ。ここで話をショッピングモールのハムスターの物語へ戻そう。物語を面白くするためには、話が進むに従って、細かな描写や説明、観察といった方法を使って、言葉・文字を埋めてゆき、変化させてゆかなくてはならないよね。「ショッピングモールに居て、ハムスターを買った。」ではなく、こんな感じかな。 

(語句と文法:数字は行数) 

12.How we move from one musical theme to another is called transition一つの音楽主題から別のモノへ移動するやり方は経過部と呼ばれている:関係詞(How) 14.To make the story interesting, we would have to fill it out and vary it with details, omments, nad observations as we goその話を面白くするためには、私達が書き進めるにつれて細かい描写や説明そして観察をもって埋めて変化させなければならないだろう:不定詞/make+O+C(To make the story interesting) 仮定法過去(would have to) 

 

「土曜日にショッピングモールに行った。友達とゲームをしようと思っていた。五階の、ゲームコーナーの反対側、丁度エスカレーターの傍に、ジョーンズペットショップがある。ここで僕は、世界一可愛いんじゃないだろうかっていう位の子犬を見かけた。欲しかったけれど、ポケットには、ショボいハムスターを買うのがやっとの小遣いしかなかった。でも次の瞬間思った。ハムスターも悪くない。どこへでも持ち歩けるじゃないか。子犬はポケットには入らないしなぁ・・・と。」 

(語句と文法:数字は行数) 

24.a hamster would be cool because I could carry it around with me everywhereハムスターはカッコいいかもしれない。なぜなら私はそれをどこへでも持ち歩けるかもしれないからだ:仮定法過去(would be could carry) 

 

一つの場所から別の場所へと動き回る方法:エスカレーターだの、徒歩だの、これのおかげで話の内容はより分かりやすくなるし、面白味も出てくる。でもクラシック音楽の動き回る方法、つまり経過部は、やっかいだ。どこから現れて、どこへ向かっていくのかを、追いつくのが難しい。音が入り乱れている所から、ポンと抜け出して、次の場所へと行ってしまう。そんな感じがするものだ。 

(語句と文法:数字は行数) 

28.How we travel from one place to the next, on the escalator or walking, makes our story clearer and more interestingエスカレーターにせよ徒歩にせよ、私達が一つの場所から次の場所へ移動する方法は、私達の物語をより明確にそしてより興味深くする:関係詞(How we travel) make+O+C(make our story clearer)  31.it's hard to identify where the transition comes from and where it leads経過部がどこから出てきてどこへ向かって行くのか確認するのは難しい:仮主語(it's) 不定詞(to identify) 疑問詞節(where) 

 

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経過部の中でも短めのものは、「古典交響曲」の中に出てくるものでは、二・三小節位しかなかったかもしれない。それもともっと短かったかも(CD29曲目)。 

 

こういった短いパッセージの中では、どこへ向かっているのか、という方向感覚をキープするのも結構楽だ。しかし長いパッセージの中にいると、結構大変なことが増えてくる(CD30曲目)。 

 

長い経過部は、ついて行くのが、うんと難しい。二つのメインの主題の方が、まだ楽だ。でも、この経過部があるおかげで、スムーズに一つの主題から次の主題へ移れるし、曲が進んでゆくにつれて、様々な面白くて楽しいサウンドを経験できるんだ。経過部というのは、乗り物の乗り換えみたいだ。一つの場所を出発して、もう一つの場所へと向かう、そんな感じがするよね。 

(語句と文法:数字は行数) 

14.it has the feeling of leaving one place for anotherそれは一つの場所から別の場所へ移動する感じがする:動名詞(leaving) 

 

そういえば、曲の出だしと終わりの部分のことを話すのを忘れるところだったよ。でもこれらは、この曲では解り易い。プロコフィエフは、主題提示部の出だしに小さな飾りつけをしている。「〇〇様!」とか「〇〇閣下!」みたいな、呼びかけの様な感じだ(CD31曲目)。そして「ジ・エンド」と、はっきりわかる終わり方。調は元々の調より五度上だ(CD32曲目)。 

(語句と文法:数字は行数) 

18.Prokofiev introduces the Statement section with a little flourish, which is kind of like calling somebody “Mister” or “The Honorable”プロコフィエフは主題提示部をチョットして飾りつけをして演奏し始めるようにしているが、それは誰かを「〇〇様」とか「〇〇閣下」と呼ぶような感じである:関係詞・非制限用法(flourish, which) 20.Then the section ends with an obvious “The End” ending, in the key that is five steps above the original keyそしてこの部分は明瞭に「ジ・エンド」という終わり方をするが、その調は元々の調の五度上の調である:関係詞(the key that) 

 

プロコフィエフの「古典交響曲」の、主題提示部を聴くにあたっては、集中して、メイン主題、経過部、そして第二主題へ、と聞いてわかるようにしよう。初めのうちは、聞き漏らしがあっても気にしない!泳ぎやスケボーを覚えるように、形式が長目の音楽に挑戦しないとね。コツをつかむには、二度、三度と聞き込まないと。他の物事と同じように、練習が必要だ。 

(語句と文法:数字は行数) 

26.Don't be discouraged when you don't hear it all at first初めのうちは全部が聞こえなくてもがっかりするな:部分否定(don't hear it all) 27.You have to approach longer forms of music the way you do learning how to swim or rollerblade君は泳ぎ方やローラーブレードの仕方を習う方法で音楽の長めの形式に取り組まなければならない:関係詞・省略(theway [that] you do) 疑問詞+不定詞(how to swim)  

 

 

 

次回、第7回は、第2章の67ページからを見てゆきます。