サキソフォン奏者のシドニー・ベシェが、「演奏」について記したものです。
1960年の彼の自叙伝「Treat It Gentle」(優しくして)からの抜粋を、拙訳ですが御覧ください。「ミュージシャンが演奏する」という言葉を、色々な言葉に置き換えてみてください。
Some people hear how you've got to smoke reefers, be hopped up before you can play.
ミュージシャンが演奏するには、マリファナ入りの巻タバコをふかして気分を盛り上げないと、などという話を聞いた人もいるだろう。
How you've got to have a woman or a bottle coaxing you on from the side... You can get yourself drunk up to most anything... drunk up, or womaned up, or thrilled up with a lot of dope. You can do that. There's many who think you have to do that.
女や酒を傍に置いて自分を慰めたり・・・あらゆることに対して自分の気持ちが酔いしれるよう自分を仕向ける・・・色々なものに頼って、気持ちを酔いしれさせる、自分を女としてめかしこむ、あるいは気持ちを高揚させる。それはその人の勝手だ。世の中には、そのように自分を仕向ける「べきだ」と考える人も多い。
But the real reason you play... it's just because you've got to play.
でもミュージシャンが演奏する本当の理由。演奏とは、ミュージシャンが否応なしに、成すべき仕事だからなのだ。
Inspiration, that's another thing
もう一つはインスピレーションだ。
The world has to give you that, the way you live in it, what you find in your living. The world gives it to you if you're ready. But it's not just given... It has to be put inside you and you have to be ready to have it put there. All that happens to you makes a feeling out of your life and you play that feeling.
インスピレーションは誰にでも与えられるべきものだ。それは人が生きる道であり、人はそれを日々の暮らしの中に見出す。インスピレーションは、それを受ける準備が出来ている人に与えられる。でも、ただ与えられるのではない。それはその人の血肉とならねばならない。よって準備が必要だ。あなたの身の上に起こることを通し、それが素材となって「あなたの思い」というものが作られる。その「思い」を、あなたは演奏するのだ。
But there's more than that. There's the feeling inside the music too. And the final thing, it's the way those two feelings come together. I don't care where that life-feeling comes from a love-feeling, it has to become something else before you're through. That love-feeling has to find the music feeling. And then the music can learn how to get along with itself.
しかしそれだけではない。音楽にも「思い」がある。さぁ、いよいよあなたの「思い」と音楽の「思い」が一つになるあらましだ。あなたの方の「思い」は何でも結構だ・・・ある曲を恋愛の思いから演奏し始めたとしても、終わるまでには、もっと別のものに昇華していなければならない。あなたの恋愛の思いは、音楽の方にある「思い」と出会うことで、音楽は一本立ちできるようになるのだ。