英日対訳ミュージシャンの本

ミュージシャンの書いた本を英日対訳で見てゆきます。

「マルサリス・オン・ミュージック」を読む 第9回

第9回:第4章  正体不明の、でもイヤなことに、敢えて立ち向かおう:練習することについて 

 

さて、ここまでこの本では、異なるタイプの色々な音楽が、お互いどの様に関連性があるかを詳しく見てきたね。ここからは、音楽でのトレーニングが、他の物事に取り組む時のトレーニングをする上で役に立つということを見てゆこう。勉強の事なら、本を読んで頭脳を鍛える、運動やスポーツの事なら、腕立て伏せをしてレギュラー入りを目指したり、スタイルをよくしたり、君が興味のある事なら何でもいい。 

 

一流ミュージシャンのコンサートを聞いたり、優れたアスリートの決勝ホームランやタッチダウンの好捕を観戦したり、レストランでおいしい料理を食べたりすると、自分もやってみたくなるものだ。一流の経験をすると、自分も一流になりたいと思うようになるだろう。その心を駆り立てるものが何であるにしても、まずは分かっていなくてはいけないこと。それは、上達するには、ましてや一流になりたいと思うなら、長時間練習を何度でもこなしてゆかないと、ね。「練習」と言う名の怪獣は、いつもやってきては「楽して上手になりたい」という僕達の希望を踏み潰してゆく。練習が好き、なんて人は、殆どいないというのが現実だろう。誰だって格好良くありたいけれど、その怪獣とは戦いたくない。理由は明白だ。息が臭くて気持ち悪いからさ。 

 

練習することは、いつだって苦しいものだ。本格的になれば特にそうだ。自分が出来ないことに取り組むために時間をかけるわけだから、自分のことが嫌いになってしまうだろう。大概はひどく退屈だ。なにせ、出来るようになるまで、ひたすら同じことの繰り返しだからね。それから「練習したい!」と気持ちを持ってゆかないとね。それには理由付けがないと。でもこんな理由じゃダメだ「成績を落としたくない」とか「親にボコにされる」とか「ヒマだし」とか。 

 

例えやる気になったとしても、練習の仕方がわからないかもしれない。方法を間違えてしまったら、かえって害になるかもよ。ウェイトトレーニングのセットを手に入れてきて、筋トレをしようと思って、毎日同じ部分ばかり鍛えるとする。これは間違った筋トレの方法だ。同じ筋肉の部分を二日連続で鍛えてはいけないことになっている。そんなことをしたら、筋力アップどころか逆に痛めてしまうからだ。というわけで、僕から練習の秘訣を教えてあげよう。全部で12ある。これで君は、正しい練習への取り組みができるようになること、間違えなしだ。 

 

その1 マンツーマンで教えてもらおう。 

 

君が日々、その時々に、やっていなくてはならない課題が何かを、きちんと把握してくれる人を見つけよう。例えばヨーヨー・マ。世界ナンバーワンのチェロ奏者。世界中どこへ行っても拍手喝采の人気者だ。でも僕と共演した時のことだ。「デューク・エリントンの『ムード・インディゴ』、このジャズの曲の弾き方、何でもいいから教えてくれないでしょうか。物事を学ぶのは僕は好きなんだよ。」どうだい?偉ぶらないから、教えを乞う!この態度! 

 

優秀な指導者というのは、君が取り組む練習メニューについて、何のためにそれをするのかを、君が理解する手助けをしてくれる。それから楽器の演奏を通じて、楽器の弾き方もそうだけれど、最終的には自分自身をコントロールする方法までも、君が身に付ける手助けをしてくれる。マンツーマンで教えてもらった方がいいもう一つの理由。それは、他の人の経験から学ぶことは、君自身の目標達成の近道だからだ。君一人で何年もかかって理解するようなことを、良い先生は一瞬で教えてくれる。君より優秀なミュージシャンの経験を、君自身に活かすんだ。どんなに才能がある人でも知らないことというものは必ずあるだろう。指導者とか先生というのは、船の船長みたいに、君がフラフラとコースから外れないよう目を光らせてくれるってわけだ。 

 

君の仲間から学ぶことだってあるぞ。君が出来ないことを、他の子が出来たとしても、気持ちが落ち込んで嫉妬したり、愚痴ったり、どうせ無理だと落ち込んだり、そんなのはダメだ。「あいつはダブルタンギングは上手かもしれないけれど、リップスラーは大したことない」なんて言っているようじゃイカンぞ。他の子が出来ないことを見て優越感なんか感じていないで、他の子ができることを見て、そこから学ぶんだ。「あの子はハイトーンは当たるけれど、音色はダメね。」なんて心がけはダメ!「あの子のハイトーンの出し方を、私もやってみよう」これですよ。 

 

その2 予定表を作ろう 

 

練習メニューを整理して順序立てるんだ。そして毎日必ず実行すること(特にやる気のないときは、尚更に)。予定表は、家の設計図とか、プラモデルの作り方説明とか、そんなようなものだ。君は模型のおもちゃとか、そういうものを組み立てて作ったことはないかい?説明指示無しで作るのは大変だよね。練習も同じこと。予定表があれば、何を、何時するべきかがわかる。予定表は、見てその通りすればいい。はっきりしたものだ。地図と同じだ。 

 

予定表には、君の楽器を演奏する上で必要な基本練習の内容が、全て確実に盛り込まれるようにしよう。基礎訓練に終わりなどない。名人と呼ばれる人達だって、基本練習をする。何せそれが演奏の土台だからね。同じ内容を、上手になるにつれて方法を変えて、取り組み続けること。 

 

トランペットの基礎訓練は、呼吸法、ロングトーンタンギング、(リップ)スラー、ペダルトーンからハイトーンまでの音出し(最低音域から最高音域まで吹けるようになる練習)、フィンガリング(速く吹けるようになる練習)、アーティキュレーション、それから長時間吹いてもバテなくなるよう、持久力をつける練習だ。楽器によって必要なテクニックはそれぞれあるだろうけれど、基本練習の内容は全ての楽器に共通している。だから君の予定表にも、次に挙げる内容がちゃんと盛り込まれなくてはならないんだ。 

 

リズム練習、フレージング、ダイナミクス(音量変化をコントロールする力)、ハーモニーの聞き分け、表現の変化付け。この「表現の変化付け」については、外国語で書いてあることが普通だから、譜面に出てきたら、意味を調べて覚えるようにしよう。molto dolce(非常に甘美に)とかleggiero(軽快に)とかね。楽器に触る日は、これ全部練習すること! 

 

その3 目標は段階毎に、いくつか作ろう 

 

君が力をつけるその行程を描くためだ。目標を作る時は、それらが現実的で、尚且つ、ちょっとやそっとでは手が届かないようなものにする。これが非常に大切だ。例えば、君が自分の家を建てるとしよう。設計図を見て「よっしゃ、一週間で完成させよう」なんて、言うわけないよね。ありえない話だ。だから段階毎に目標をチャートにしてゆくわけだ。「じゃあ、土台作りに一か月だろ、そしたら壁は二か月でやりたいな」とか言って、半年後に完成まで持ってゆこうとするよね。 

 

目標を立てる上では、そこに誠実さを加味してゆきたいものだ。自分を甘やかさないでいられるかは、君次第だ。一旦決めた目標を修正してゆくことも、時には必要だ。予定より楽に物事が消化できたら、目標レベルを少し上げていくべきだろう。困難が生じたら、予定にゆとりを持たせて、解決のために十分時間をかけるようにしよう。マンツーマンで教えてくれる人がいると、こういった目標の設定・修正の手助けをしてくれる。 

 

君と一緒に学んでいる仲間がいるなら、その子達との競争は、君が目標を立ててそれを達成する動機づけになるだろう。ライバルに負ければ、それは時には君自身が、もっと高い所を目指そうという気持ちをもたらしてくれるんじゃないかな。競争することは、必ずしも悪いことじゃない。ケチな根性ではなく、相手に対する敬意と、自分自身の演奏の上達を望む心、これがあるなら効果はある。でも何と言っても、自分との戦いこそが一番だ。 

 

その4 集中しよう 

 

練習する時は集中しよう。例えば数学の宿題でも何でもいいけれど、自分がやりたくない事を抱えてしまい、じっと座って、ただ溜息をついたりボヤいたりして、もし集中していれば5分が10分で終わったことが、1時間何もせず無駄にしてしまった、なんてことしたことないか?練習時間中は、脇目も振らず集中しよう。集中できずに体だけ動かしているだけなら、やめた方がいい。後で戻ってやること。 

 

集中力、とは、脇目も振らず物事に打ち込む能力のことだ。つまり余計なことを考えず、長時間、与えられた練習の時間中全てのエネルギーを一点に集める、ということ。何事でも上達のためには、集中力とは大切な武器で、そして集中力は誰でも伸ばすことが出来るんだ。どうすればいいのかって?とにかく集中しようとすることさ。最初の内は短い区切りの時間で、少しずつそれを長くしてゆけばいい。エネルギーを集めると言っても、初めの内は30秒とか1分がせいぜいかもしれないけれど、続けていれば、5分が10分になり、やがてはもっと長い区切りの時間集中できるようになる。 

 

時には外野で色々なことが起きていて - ビデオゲームやうるさいラジオ、テレビが付いていたり、他の人達がせかせか歩き回っていたりして - じっと座っていることが一番大変だ、なんてこともあるだろう。練習時間中は腰を据えて、雑念を払い、心静かにすること。そうすることで目の前の課題にまっすぐ集中することによって、精神が磨かれ、やがては楽器を通して君の個性を最高の形で表現してゆくことへ繋がってゆくんだ。 

 

その5 肩の力を抜いて、じっくり練習しよう。 

 

上手になりたいなら、焦ってはダメだ。といってもそうしたいのが人の常というものだ。僕の処に習いにくる子に、何か説明しようとする時、いつもこのことが気になるんだよね。話し終わっていないうちに「ハイハイ、わかりました」と言ったりして。で、吹かせてみると、ボロボロ間違えたりする。落ち着けよ!と言いたくなる。 

 

本来テンポが速い曲を、ゆっくり吹かなければならないとなると、少々退屈な練習になってしまうかもしれないけれど、それは練習のうち、というものだ。そのテンポで、ひたすらやり続けること。出来るようになったら、毎日、毎週練習を続けつつ、少しずつテンポを上げてゆけばよい。 

 

リラックスすれば、しっかり息は吸えるし、無理なく集中しやすくなるし、充実した時間が過ごせるというものだ。「さっさとすませなきゃ」みたいな練習の進め方をしないこと。たとえ本当にそうしたいと思ってもね。練習を計画したら、きちんとやった方がいい。「きちんと」とは、大概「ゆっくり目に」ということだ。みんな練習する時のテンポが速すぎるんだ。ゆっくりさらえば、音色は良くなるし、リズムも安定してくるし、フィンガリング、マレットテクニック、ボウイング、スライドアクション、タンギングといった難しい体の動きに必要な身体能力も鍛えられるし、自分の楽器と共に取り組んでいる音楽と、より密接な関係(?!)関係をつくることにも繋がってゆく。 

 

また、リラックスを日頃からしていると、本番でパニックに陥った時に大いに役に立つ。心の落ち着け方がわかるというものだ。何せ普段からずっとそうやってきているのだから。リラックスする、ということが、何事に取り組む上でも全てに通じるようになる。 

 

その6 難しい部分こそ、じっくり時間を変えて練習しよう 

 

自分が弾きこなせない所にこそ、多目に時間をかけるべきだ。ご近所や通っている学校で、ちょっと日頃の腕前を聞いてもらおう、なんてことになったとしよう。みんなに褒めてもらいたいだろうから、当然、間違わずにできることを披露しようとするだろう。普通、その方が簡単だからね。だからこそ、難しいことに取り組む時は、正に、マジになって、集中して、自分の全てを懸けるんだ。自分の力不足と向き合うことを、恐れてはいけない。君は人間であって、機械じゃないんだ。完璧なんて、なれっこないんだ。細かくて速い部分が得意で、ゆっくりした部分が苦手という人達もいる。人はそれぞれだ。 

 

物事によっては、何時間も練習しなくてはならないようなものもあるだろう。バスケットボールを例に見てみよう。ゲームが始まって選手達がコートへ登場して、格好いいダンクシュートだの、自分達の練習の成果を次々と披露する。でもフリースローの処へ行って、フリースローが決められなかったりしてね。何のことはない。自分達が苦手なことを、ちゃんと練習してこなかったからいけないんだ。 

 

練習予定を立てる時は、君の得意・不得意がどのような状態か、を考えるようにしよう。何を言いたいかというと、今君が出来ないことに長い時間をかけて、出来ることには、それより短い時間を当てるよう、予定を組もう、ということだ。これは本当に辛いことでしかない。なぜなら、本音は誰だって、マトモな状態の自分の音しか出していたくないからだ。「やった、出来た!」と思うところまで練習し終えた時、同時に自分の下手さ加減に落ち込む位でないと、実際はまだ足りない状態だ、ということがほとんどだ(直訳:音の状態を良くするために掛かる「わずかな」時間(逆説:実際は「長時間」)耐えて自分達を鍛えなければならない)。自分の抱える課題に対しては、正面から向き合おう。それしか方法はない。逃げ回っていてはダメだ。友人達にウケればいい、あるいは自己満足できればいい、そんな演奏ばかりしていると、音楽が薄っぺらになる。同時にそんなことをしていると、人間性までも薄っぺらになる。この本を読む僕達の練習予定表は、ひたむきな上達への目標を掲げ、自分の欠点に対する戦略を記したものにしようじゃないか! 

 

その7 常に心を込めて楽器を鳴らそう 

 

ウォームアップだろうと、チャラ弾き・チャラ吹きだろうと、オフザケだろうと、一旦楽器を鳴らしたら、全て立派な音楽作品として扱うこと。「どうでもいい」と思えるかもしれないことでも、実は「どうでもよくない」ことだらけだ。靴紐の結び方、お箸の持ち方、どれも君自身がそこに表れているからだ。日々様々な場に顔を出す度に、自分はこういう人間だ、ということをキチンと周囲の人達に示すこと。一つ一つのことに対して、ちゃんとした態度で、これに取り組むこと。常に自分の人間性を確立し、その場その場で行動にそれを表そう。冷ややかな物の見方をして、「こんなチョイ役やってられるか!」なんて思ってはいけない。与えられた役割が、どんなにツマラナイものに見えても、自分の全てをかけてそこに参加し、ベストを尽くそう。 

 

君が演奏で表現するものに、君自身の演奏に対する心構えが表れる。表情をつけて演奏するには、心の内を熱くしなければならないね。表情をつけるということは、スラーをかけるとか、タンギングをするとか、そういう物理的な話ではない。心の中から湧き上がってくるものなんだ。言ってみれば、君が聴き手に伝えたいと思うことかな。これまで自分が、見て、聞いて、知って思ったこと全てを、伝えればいい。表現するものに、正しいとか間違っているとか、そういうものはない。自分の思いをどこまで伝えることが出来たか、その違いだけだ。言葉を学ぶ時に、幅広く色々な物の言い方を身に付けることと同じ。言葉の言い回しを多く身に付けるほど、人とのコミュニケーションは、より確かなものになっていくよね。 

 

その8 自分の失敗から学べばいい 

 

なので、あまるう落ち込まないで。間違えようが、コンサートで失敗をやらかそうが、それで「世界の終わり」ではないだろう。例えば、フットボールの大会。決勝戦の試合中、折角のタッチダウンのチャンスにパスされたボールを落としてしまった。スタジアムの観客席の上の方からはみんなが注目している。友達もみんな来ていて、お母さんもお父さんも、そんな中、やらかしてしまった!ベンチに戻ると、チーム全員がガックリ。それでも気にしないこと!それで「世界の終わり」ではないだろう。失敗から学ぶんだ。ミスをしたら、それを自分の経験の糧にして、前へひたすら進むんだ。 

 

スポーツのチームは、試合の録画を何時間も見て、どんなミスがあったか確認する。人間は機械ではないんだ。やみくもに続けるのではなく、考えながら続けることが大切だ。 

 

<音色・音質こと全て> 

 

どんな楽器を演奏するにしても、音色・音質こそ、唯一最重要だ。どうしてこの話をするのかって?それは、楽器に乗って流れ出る君の音は、音楽面での「君らしさ」に他ならないからだ。楽器の音は、正に君の声の様なもの。ところで、音も色々で、開いた音やこもった音、楽しげな音や悲しげな音、大きな音や小さな音、そしてどれも「美しい」。楽器を習い始めたら、まずその楽器本来の音、トランペットならトランペットの本来の音を出せるようにする。次に、単に「トランペットの音」から、ウィントンの音とかエディの音とか、とにかく誰でもその人ならではの音、といったものを出せるようにするんだ。ということは、音色・音質を磨き上げる練習をする時は、まずは楽器本来の音をキチンと出せるようにして、次のその音に、自分の個性を色付けしてゆくということだ。 

 

憧れのプレーヤーを真似することは、全然かまわないことだ。音楽表現のネタを幅広くしてゆこうと思ったら、真似する以外に方法はないからね。でも同時に、君にしかできないこと、というものを見つけることも大切だ。だって、自分らしい音を聞かせることが出来たら、気分がいいだろうし、それを聞く他の人にしても、君の奏でるサウンドの中に、君らしさを見出すことが出来たら、きっと楽しいんじゃないかな。 

 

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪ 

 

さて、ここまで見てきたことが、アンサンブルなどチーム活動に取り組むときに、どう生きてくるか、話そう。音楽をしていると、大半の時間は、グループでの活動に費やされるし、音楽をやっていて最高の瞬間というのも、グループで努力した結果がもたらすことが大半だよね。実際、音楽以外でもそうだ。君は何回も聞いたことがあるだろう、表彰を受けている人のスピーチだ「ありがとう、と言いたい人たちがあまりにも多すぎて・・・みんなで頑張った結果です、本当に」。グループとはいいもんだよね。教会の中で集団礼拝とかあるじゃないか。想像できるだろう。300人位の人々が同じお祈りを唱えるんだ。始まったばかりの時は少しずれていても、少しした処でグループ全体のリズムが揃って、終わってみれば、バッチリ一体感が出ていたりする。これこそグループでの活動の真骨頂。「一緒にやろう」とする気持ちこそ、アンサンブル、ひいては、人と共に暮らしてゆくことを、成功させるカギなのだ。 

 

グループで演奏する上で非常に大切なのは、良いマナー、そして「聴く」ということだ。音楽で「良いマナー」とは、他の人とバランスを取って、そしてよく耳を傾けること。「バランスを取って」とは、自分の役割が何なのかを、分かっている、ということだ。今演奏をしているのは、ハーモニー?、ソロ?、リズム?、それともお休み?、といった具合にね。 

 

休みの小節の処では、自分はアンサンブルの一員だ、という意識がなくなってしまうかもしれないが、とんでもないことだ。休みの小節の処では、他のパートを聴いて、心の中でそれを支えるんだ、という意識で集中するべきだ。自分の出番が来るまで、ボケっと小節数を数えるんのではなくて、曲全体を理解しようとして、自分の役割を知ること。 

 

鍛えるべき能力が色々ある中で、聴く力が一番大事なんじゃないかな。誠実さがないと身に付かない能力だからね。誰かと話をしていて、「あ、この人僕の話に興味ないな」と感じたことはないかい?その子が次に言う事で、そうだったとハッキリする。その子は自分が言いたかった関係ない話題を切り出すタイミングを、じっと待っていただけ、みないなね。アンサンブルに取り組むときにも、同じ問題が起きる可能性がある。多くの楽曲の演奏で、ミュージシャンは、曲中の様々な主題や仕掛けを使って会話をするわけだが、それには、コールアンドレスポンスが大抵用いられる。ちゃんと聴いていないと、他のメンバーからの「コール」を聞き逃して、君の「レスポンス」は音楽的とは言えなくなるぞ。 

 

合奏練習を通して、我儘を抑える力をつけよう。君以外のプレーヤー達だって、ちゃんと上手に聞かせることで、曲作りが上手く行くってもんだ。君が受け持つ、多分一番どうでもいいと思われるような役割部分を、キチンとやって、君以外のプレーヤー達を感心させてこそ、君はそのメンバーとして成功するかどうか決まる。 

 

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪ 

 

それじゃ、僕からの「練習の秘訣」、最後の残り四つだ。 

 

その9 ひけらかさないこと 

 

理由その1皆に嫌われるから今でも覚えていることだけれど僕は高校時代ジャズの演奏でソロを吹く時は循環呼吸法を使っていた鼻から息を吸い続けながら、口から息を吐き続ける、というものだ。10分くらいでも、息を切らさず演奏し続けられる。でも当然、その10分間の演奏の価値は、それだけのことにしかならなくなってしまう、という訳だ。 

 

んで僕は一晩中だってこれで吹き続けることが出来たでもある日僕のお父さんこれがジャズピアニストなんだけれどこう言ったんだ。「おいせがれよウケ狙い吹いているとそれっきりだぞ。」これはガツンときたね。客にウケると分かっていて、ひけらかしていたために、肝心の音楽の中身を台無しにしていたってことだ。君も演奏する時は、「ひけらかし」は止めよう。中身で勝負しよう。これが心を磨き、腕を上げる一番の方法だってわけだ。 

 

理由その2、アンサンブルの大事な所を外してしまうから。そして、人を欺く行為だから。料理をするのに、何でもかんでも砂糖を使うようなものだ。食べる人は、初めの内は美味しいと言ってくれるだろうけれど、そのうち飽きられてしまう。残された君はというと、料理の腕は上がっていない。音楽をする者として、いつでも聴いてくれる人達と良い関係でいよう。ひけらかしは、音楽を通して人々と語り合う機会を、自分から台無しにする行為だ。ただの、だまくらかしや、ごまかしに過ぎない。誰かの仲間に入れてもらおうとして、本当の自分を偽るようなものだ。自分自身と、入れてもらおうとする人達にウソをつくことになる。 

 

その10 自分で工夫しよう 

 

君のコーチは、何らかの方法で君に音楽を教えようとしてくれるわけだけれど、それが君と君の欠点や能力にどう影響を与えるだろうか、と考えながらでないと、ただハイハイと聞き入れていてはダメだ。最も広く世間に受け入れられている方法は、確かに最も効果的だろうけれど、いつもそうとは限らないし、また全ての人に当てはまるとも限らないじゃないか。 

 

走り高跳びって陸上競技にあるだろう。オリンピックにしろ、その他の大会にしろ、昔は助走して体の前が下を向くようにバーを飛び越えるのが普通だった。そしたら、フォズベリーという男が考えた。助走して体の背中が下を向くようにバーを飛び越える方法をね。皆に笑われたけれど、フォズベリーがその方法でオリンピックの金メダルを取った途端、誰も笑わなくなった。今や皆が、フォズベリーの編み出した「背面跳び」で跳んでいる。その方が高く跳べるからだ。 

 

誰だって、ロボットみたいに人の言いなりには、なりたくないだろう。君を教えてくれる人は、道案内はしてくれるけれど、指示した道を行くかどうかは君が決めることだ。音楽をする人として、君が思い通りになる、ならないは、問題が出てきた時に、それにチャンと向き合って取り組むことが出来るかどうかにかかっている。その問題というものによっては、君を教えてくれる人が助けてあげられるものと、君が自分でやるしかないものとがある。後者は、どんなに偉い先生でも無理ってもんだ。 

 

先生が言ってきたことは、まずはやってみること。でもその方法がダメなら、問題解決のための他の方法を探そう。言っておくけれど、カッタルイとかバカバカしいという理由だけで、教わったことを拒否してはいけないよ。 

 

先生と率直に話し合うことが大切だ。と言って、先生に対しては敬意を払って、一線を越えないこと。無意味な口論に落ちぶれないこと。そうでないと、先生も生徒も両方不幸になるだけだ。先生というのは、生徒から良い質問を投げかければ、教え方も良くなるものなんだ。意地の張り合いは、大抵失敗ばかり。一旦先生と生徒との間に、敵意なんか芽生えた日には、良いコミュニケーションなんて生まれっこない。 

 

自分で工夫していると、判断力がついてくる。自分のしたことへの責任感も持てるようになる。時には判断を誤って自らツケを払うことにもなるだろう。でもうまく判断できれば、手柄は君のものだ。 

 

その11 前向きに物事は捉えよう。 

 

人生の見え方は、君の考え方次第でどうとでもなる。前向きに物事を捉えていると、いつだって世の中は素晴らしく見えてくる、というか、素晴らしくなる。後ろ向きでは、楽しくもなんともない。「後ろ向き」が楽器から鳴り響いてきたら、これほど悲惨なものはないからね。伝説の、偉大なドラム奏者であるアート・ブレイキーは、よくこう言っていた。「音楽は日々の足の汚れを洗い流してくれるものだ」とね。だから、何をしようとするにしても、四六時中文句を言いながらやりたい、なんて人はいないだろう。ブルース音楽の様なものの考え方をするべきだ。そうだよ、今は良くないかもしれないけれど、それは良くなってゆくものなんだ。本当だよ。 

 

前向きな姿勢を身に付ける方法がある。物事を色々な角度から見て取るようにするんだ。ほら、古い諺にあるじゃないか「このコップ、半分『しか』水が入っていない?半分『も』水が入っている?」とね。どちらも本当のことだよね。見方を一つに決めてかかってしまったら、それしか出来なくなってしまうものだ。どんな課題に取り組むときでも、それを前向きに捉えてみろ、といわれても、それは辛いよね。でも繰り返すうちに、これは習慣になってゆくし、経験を積むことで、無意識にできるところまで身に付くものだ。 

 

前向きな姿勢は、人前で演奏する時には、とても大切だ。本番中のミスは、誰にでも必ず起こりうるものだ。ミスをしたら、気持ちが沈んで、この本番は台無しだと思ったりしないで、止めずに前より挽回して演奏すればいい。自分では大失敗で目も当てられないミスをしてしまった、と思っていても、実際は大したことなかった、なんてことは良くあるだろう。前向きな姿勢は我慢強さをもたらしてくれる。なぜなら、どんな時でも「良いことあるぞ」という気持ちでいられるわけだからね。諦めて投げ出さず、演奏し続けたい、と思わせてくれる。それが前向きな姿勢だ。 

 

いよいよこれが最後の一つだ。 

 

その12 何事に対しても、他のとの関連性がある、と思って、アンテナを張ろう 

 

これこそ、この本でずっと触れてきていること。他のと関連性を見出そうとすること。どんなことに取り組むとしても、どれも必ず他と繋がる処があるものだ。だから楽器の練習を、色々なことと結び付けて考えてきたね。家を建てること、言葉を学ぶこと、スポーツ、料理、人付き合い、その他色々沢山例に出してきたね。生きているその中で、他とのつながりを見出そうとしていれば、君自身も、そして君が思っていることも、この世の中で独りぼっちになど、決してならないものだ。自分と似ているところ、自分が思っていることや自分が取り組んでいることと似ているところ、そんなことを、パッと見たところ全然違うものの中に見つけることが次々とできれば、この世界での君の居場所や、この世界と君との絆の本数は、どんどん増えてゆくことだろう。 

 

次回、第10回は、第4章の英文のポイントをまとめてご覧いただきます