英日対訳ミュージシャンの本

ミュージシャンの書いた本を英日対訳で見てゆきます。

「マルサリス・オン・ミュージック」を読む 第5回

第5回:第2章  聴きどころを逃さずに:形式について 

 

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僕がジャズとクラシックの両方を演奏するんだ、というと、決まって言われること「そういうジャンルの音楽って、聴くのが辛いんだよね。あ、誤解するなよ。色々と良いものなんだろうけどさ、何しろ長いし退屈でね。」そういう気持ち、分からなくもない。僕の父はジャズミュージシャンだった。で、僕は子供の頃、父の演奏を聴きに行くのが、好きになれなかったんだ。ましてや、あの長い長いオーケストラのコンサートなんか、論外。演奏の内容が、何を言いたいのか、ひたすらコロコロ変わっていく気がしたんだ。どこに集中したらいいか、さっぱりわからなかった。 

(語句・文法:数字は行数) 

2.those styles of music are too hard to listen to音楽のそういう形式は難しすぎて聴くことができない:too+C+不定詞(too hard to listen) 5.I never liked listening to what he was playing私は全く彼が演奏していることを聴くことが好きでなかった:動名詞(listening) 関係詞(what he was)  

 

そんな頃、「You're the one for me, baby」という曲が、ラジオから流れてくるのを何回も聞いているうちに、僕はわかったんだ。僕にとっては、これこそが本当の音楽。同じビートやフレーズが繰り返されて、合間に、ちょっと変わったものを挟む、という演奏だ。 

(語句・文法事項:数字は行数) 

9.Now what I heard on the radio, “You're the one for me, baby,” repeated two thousand times, I could understand thatその頃私がラジオで耳にしたもの「You're the one for me, baby」が2000回(何度も何度も)繰り返されて、私はそれを理解できた:関係詞(what I heard) 分詞構文(repeated)  

 

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さて、この章で取り上げる音楽を通して、優れた文学作品の手法というものを見てゆこう。そして、名作を楽しむためには、登場人物とその関係に注意していなくてはいけないのと同じように、演奏時間の長い音楽作品を楽しむには、そのテーマを把握して、変化についてゆき、再現されればそれに気づく、これが必要だ、ということを学ぼう。 

(語句・文法:数字は行数) 

1.the music we'll be discussing in this chapter unfolds the way a good story doesこの章で私達が話し合う音楽は優れた文学作品が行う方法を示している:関係詞・省略(the music [that] we'll the way [that] a good story does) 5.follow how they change and recognize when they appear to enjoy an extended piece of music長い音楽作品を楽しむためにそれらがどのように変化するかといつそれらが現れるかについてゆく:疑問詞節(how they when they) 不定詞(to enjoy) 

 

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形式、それは、曲の中に出てくる色々なアイデアをまとめる方法のことだ。僕達は毎日形式と一緒に暮らしている。と言っても、あまりに身近すぎて、ピンと来ないだろう。食事は、朝に朝食、昼に昼食、夜に夕食をとる。そして、一日の終わりにベッドに入る。次の日も同じ。同じ形式を毎日なぞっているよね。 

(語句・文法:数字は行数)   

1.Form is the way we organize musical ideas形式とは私達が音楽のアイデアを構成する方法である:関係詞・省略(the way [that] we organize) 

 

特に何もない普段の日を過ごす中で、沢山の形式をなぞっているんだ。例えば、午前8時に数学、午前10時に国語、午後1時に歴史の授業があるとしよう。これは学校がある日の形式で、起床、食事、就寝を決まった時刻にする、という形式と、並行して行われる。 

(語句・文法:数字は行数) 

10.it goes right alongside the form of waking, eating, and sleeping at regular timesそれは決まった時間の起床、食事、そして就寝という形式と並行して進む:動名詞(waking, eating, sleeping)  

 

日によっては、他の形式と入れ替わることもあるだろう。平日なら、学校の形式に従う。でも決まった曜日にだけ行われる授業ってあるよね。だから、月曜日と木曜日は違う形式をなぞるんじゃないかな。じゃぁ、こういうのはどう?午前中ずっとテレビでアニメを見て、残りはずっと遊んで、あとは寝る、というのは?そう、これはきっと週末のことだね。形式が頭に入っている、ということは、何がいつ起きるか知っているということだ。そして形式は繰り返し起こるから、それを自覚することができる、というわけだね。 

(語句・文法:数字は行数) 

15.you have the school form to follow君はなぞるべき学校の形式がある:不定詞(to follow) 23.that must be a weekendそれは週末に違いない:推量(must be) 25.Knowing the forms means you know what is going to happen, and when it's going to happen形式を知っているということは何が起きるかいつそれが起きるかを知っているということを意味する:動名詞(Knowing) 疑問詞節(what is when it's 

 

聴いたことのない曲をひも解いてゆく、ということは、新学期の初日みたいなものだ。何が起きるか、正確にはわからないけれど、予定表があるので、それを見れば、大体のことは理解できるよね。学校での毎日が予定表を元に繰り広げられてゆく、これと全く同じように、演奏時間の長い音楽作品も、形式を元に繰り広げられてゆく、というわけだ。そして、その作品の形式を知っている、ということは、予定表が手元にあるようなものだ。形式のことが分かれば、曲を聴いていて、次々と耳に入ってくることが、それぞれ何なのか、ちゃんとわかる状態になっているわけだ。ということは、「ややこしい」ことは、「わかりやす」くなるだろうし、「つまらない」ことは、「面白」くなるだろう。となれば、どちらかと言えば演奏時間が長い作品を魅力的なものにしている要素が見えてくるし、長い作品が繰り広げられてゆくのを聴く楽しさを知るだろう。じっと座って退屈して、「ま、いいんじゃないんですか」と、心にもないお世辞を言わなくて済む。 

(語句・文法:数字は行数) 

29.Listening to a new piece of music unfold can be like your first day of school.新しい音楽作品が解き明かされるのを聴くことは君の学校での初日に似ているかもしれない:動名詞/知覚動詞+O+過去分詞(Listening to a new piece of music unfold) [p58,4]knowing the form of a piece is like having a schedule作品の形式を知っているということは予定表を持ているようなものだ:動名詞(knowing having) 8.that can make something that was confusing and boring understandable and interestingそれは混乱させるようなそして退屈させるようなものを理解しやすく興味深くすることができる:make+O+C(make something understandable) 11.you'll know how  to have fun hearing them unfold君はそれらが解き明かされるのを聴きながら楽しむ方法を知るだろう:疑問詞+不定詞(how to have) 分詞構文/知覚動詞+O+C(hearing them unfold) 13.simply to be polite礼を欠かないようにするためだけに:不定詞(to be) 

 

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ソナタ形式 

まずは、ソナタ形式と呼ばれるものから行ってみよう。ソナタ形式は、4・5階建てのショッピングモールの中を歩いて回るようなものだ。駐車場脇の1階入り口から、上に登って、色々なフロアやショップをぐるっと回り、そして1階、つまりスタートへ戻る、という音楽散歩だ。 

(語句・文法:数字は行数) 

14.The first form we're going to explore is called sonata form私達が探検する最初の形式はソナタ形式と呼ばれている:関係詞・省略(form [that] we're] 20.and then back to the ground floor, where we startedそしてその後1階に戻る。そこは私達がスタートした場所だ:関係詞・非制限用法(floor, where we) 

 

この散歩は三つの部分から成る。主題提示部、展開部、再現部、だ。一旦聴くポイントをつかめば、さほど難しくない。ついていくのが一番キツいのは、最初の部分だ。理由は簡単。ここで大事な主題を、掴んで覚えなくてはいけないからだ。小説やなんかのストーリーを追いかけるようなものだ。 

(語句・文法:数字は行数) 

23.It's not that difficult to hear once you know what to listen for一旦何を聴き取るべきかを知れば聞くことはそれほど難しくはない:仮主語(It's not) 不定詞(to hear) 疑問詞+不定詞(what to listen for) 2.The hardest part to follow is the first sectionついてゆくのが一番難しいのは最初のセクションだ:不定詞(to follow) 

 

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ソナタ形式の作品は数多い。管弦楽ソナタ形式の曲を演奏すれば、それは交響曲という。一つ、二つだけの楽器による演奏なら、単にソナタ、という。さあ、ここではロシアの作曲家、セルゲイ・プロコフィエフの「古典交響曲」、この曲のストーリーを追いかけてゆこう。どんな結末が待っているか、お楽しみに。 

(語句・文法:数字は行数) 

6.and see where it leadsそしてそれはどこへ向かうか見てみよう:疑問詞節(where it leads) 

 

主題提示部 

この物語は、どうしても最初の部分が厄介だ。登場人物は誰か、何をしようとしているのか、それを掴まなくてはいけないからね。プロコフィエフの「古典交響曲」には、二人の登場人物、つまり、二つの主題が出てくる。まずはメインとなる主題(譜例6、CD24曲目)、次に、それとは明らかに異なる主題、名前はシンプルで、第二主題という。(譜例7、CD25曲目)これだけを、ソナタ形式の主題提示部で演奏するというのなら、主題を掴んで覚える、なんてことを気にする必要はないだろう。たった8秒で演奏は終わってしまう。 

(語句・文法:数字は行数) 

7.The hardest part of the story is bound to be the beginning because you're trying to figure out who the characters are and what they're going to do物語の一番難しい部分は初めの部分と決まっている。なぜなら、君はその登場人物が誰なのか、彼らが何をしようとしているのかを理解しようとすることになるからだ:不定詞(is bound to be to figure) 疑問詞節(who the characters are and what they're) [p.60,1]we travel from the main theme up to a distinctly different theme, which is simply called the second themeそして私達はメインとなる主題から明らかに異なる主題へと旅する。そしてそれは単に第二主題と呼ばれる:関係詞・非制限用法(different theme, which is) 4.If playing these two themes were all there was to the Statement section of sonata form, we wouldn't have to worry about recognizing and remembering themもしこれら二つの主題を演奏することがソナタ形式で成すべき全てであるなら私達はそれらを認識することと記憶することについて気にする必要はないだろう:動名詞(playing recognizing and remembering) 仮定法過去(If playing these two themes were we wouldn't) 

 

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この物語、ショッピングモールの話を、読み手に気に入ってもらいたいわけだから、「ショッピングセンターに行って、ハムスターを買った」とは、いかないだろう。十分中身がないのだから、良い描き方ではない。この話を面白くするには、もっと描きこんでいかないとね。どこのショッピングモール?どんなハムスター?いつの話?みたいな、ね。音楽では、メイン主題と第二主題、これが表現豊かになるためにも、主題を展開させて演奏してゆこう。色々な楽器を使ったり、何らかの方法で主題を変化させたり、それでもなお、元々の主題の性格や雰囲気は、しっかりキープするんだ。 

(語句・文法:数字は行数) 

12.In order to make our story interesting, we have to be more descriptive私達の物語を興味深いものにするためには、私達はもっと描写的にならなければならない:不定詞(In order to make) make+O+C(make our story interesting) 

 

 

次回、第6回は、第2章の62ページからを見てゆきます。