英日対訳ミュージシャンの本

ミュージシャンの書いた本を英日対訳で見てゆきます。

「マルサリス・オン・ミュージックを読む」第12回

第12回:第3章  スーザからサッチモへ:吹奏楽とジャズバンド 

 

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インプロバイゼーション 

 

ラグ、ラグタイム、そしてスーザが確立した吹奏楽の演奏スタイルは、全て、大体1895年ころにニューオーリンズで出会い、そこで今日言う処の、ジャズを形作った。ニューオーリンズには独特の人種混合の雰囲気があった。人々は世界中から集まってきていた。フランス系、スペイン系、アフリカや中南米の様々な地域出身者、クレオール(ヨーロッパ、特にフランス系とアフリカ系の混血)、それから北アメリカ原住民の人達。当時ニューオーリンズが、アメリカの他の都市とは一線を画していたのは、こういった様々な人種がうまい具合にまとまりを保っていたことが挙げられるんだ。同じ地域に様々な人種が暮し、文化を共有し、公共生活でも差別などされることはなかった。このことが、世界に類を見ない、アメリカ独自の音楽家を生んだ。アメリカ流のアレンジを加えた、ヨーロッパとアフリカの音楽スタイルの影響を受けた彼らこそ、ジャズミュージシャンだ。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

 

16.Raggin', ragtime and the Sousa style of wind band playing all met in New Orleans sometime around 1895 to form a style that we call jazzラグ、ラグタイム、そしてスーザの形式による吹奏楽の演奏方法は私達がジャズと呼ぶ形式を形成するために概ね1895年前後に全てニューオーリンズで出会った:動名詞(playing) 不定詞(to form) 関係詞(that)  

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ジャズミュージシャン達は、個性的な演奏、つまり、自分にしかできない演奏をできるよう、そして聴衆からもそう認めてもらえるように、全てをかけて努力する。メロディをインプロバイズし、様々なリズムを駆使してこれを演奏する。インプロバイズする、とは、自然な流れで音楽を創っていくことなんだ。これは人と会話をする時と丁度同じだね。その時、その瞬間に言う事を創り出してゆく。そして、会話が進むにつれて、言おうとすることを整理する。ジャズミュージシャン達はこれを、音符で行うわけだ。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

1.Jazz musicians strive to sound personal, to sound like themselves, and to be identified as suchジャズミュージシャン達は個性があるように聞かせたり自分達の様に聞かせたりそのようであると認識されるために全てを懸ける:不定詞(to sound to strive) 5.We invent what we're going to say right in the moment, and we try to organize our thoughts as we go along私達はちょうどその瞬間私達が言う予定にしていることを創り出し私達が進むにつれて私達の考えを整理するよう努力する:関係詞(what) 近い未来の決まった予定(we're going to) 不定詞(to organize)  

 

ジャズミュージシャン達は、自分達だけにしか作れない「音の署名」というものを持っている。何らかの方法で二つの音をつなげて一つにしてみたり、動物の鳴き声や足音のようなものを真似してみたり、そのミュージシャンの心の奥から発する、そのミュージシャンならではの、人間のシンプルな感情表現を、ね。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

9.Jazz musicians will come up with little signature things, sounds that only they can make(ジャズミュージシャン達が思いつくのは小さなサインの様なもの、すなわち彼らだけが創ることが出来る音のことだ:同格(little signature things, sounds) 関係詞(that) 

 

それから - というか、これこそニューオーリンズジャズのポイント - ジャズミュージシャン達は「音楽」という「言葉」で会話をしようとする。つまり、聴いて、意思を交わして、演奏する、を、いっぺんにやるってことだ。ジャズでは、いつでも演奏内容の変化に対応できる準備が必要だし、マナーを守らなくてはいけない。音がデカすぎたり、自分ばかり演奏しまくったりして、他人の邪魔をするな、ということだ。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

21.That means don't play too loud, and don't play so much that you get in other people's wayそれは大きすぎる音量で演奏してはいけないし沢山演奏しすぎて他の人達の邪魔になってはいけないということを意味する:so~that節(so much that) 

 

曲の聞こえ方は、かなり異なっているかもしれないけれど、ジャズバンドの楽器編成は、スーザ形式のと考え方は同じだ。行進曲の定番「ハイ・ソサエティ」、これを分解して、吹奏楽とジャズバンドの関連性を見てみよう。「縁の下の力持ち」からスタートしようか。スーザ形式の吹奏楽では、バスドラムはシンバルと一緒に、1・3拍目に演奏する音が来ることが多い(シンバルは合わせシンバルだ)(CD65曲目)。 

 

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一方、ジャズバンドでは、バスドラムは1・3拍目に、そしてシンバルはワイヤーで出来た輪の形をしたバチを使い、2・4拍目に演奏する音が来る(シンバルはサスペンディドシンバルだ)。注目は、1回おきに、バスドラムが4拍目に強く叩いてくることだ。複雑そうだけれど、聞いてみれば、とても良く分かるぞ。このバスドラムとシンバルが、実際にしていることは何かというと、この二つの楽器はインプロバイズされた「会話」をしている、ということなんだ(CD66曲目)。 

 

次はスネアドラム。スーザ形式の行進曲では、スネアドラムは予め作曲家が楽譜に書き込んだ、ある種のリズムパターンを演奏する。いわゆる「カデンス」という、フレーズのシメを形作るために繰り返されるものだ(CD67曲目)。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

9.In the Sousa-style march the snare drum plays some type of written pattern that is repeated to form what we call a cadenceスーザ形式の行進曲ではスネアドラムはカデン巣と呼ばれるものを形成するために繰り返される何らかの書かれたパターンを演奏する:過去分詞(written) 関係詞(that) 不定詞(to form) 関係詞(what) 

 

一方ジャズバンドでは、スネアドラムは、様々なカデンスをインプロバイズする。これらはシンコペーションがかけられ、そしてバスドラム・シンバルと会話を交わすように演奏される(CD68曲目)。 

 

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吹奏楽では、テューバ、あるいはスーザフォーンは、1・3拍目にアクセントを置いて、お馴染の「ズンチャ、ズンチャ」という音を形作る。ね、これは行進曲の「ズンチャ」というサウンドの「ズン」の部分だとわかるよね(CD69曲目)。 

 

ジャズバンドでは、テューバは、スキップするような感じを出すようなシンコペーションのかけ方をして、他の楽器と会話する(CD70曲目)。 

 

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吹奏楽では、トランペットの1番奏者は、大抵いつもメロディを吹いて、2番奏者と3番奏者はメロディのハモリを吹いて、下支えをする。実際は、スーザが生きていた時代には、コルネットが使われていた。吹き方はトランペットとほとんど同じなんだけれどね。トランペットよりもコルネットの方が、音色は柔らかく、穏やかだ。でもトランペットの方が、僕は「イケてる」と思っているゾ!(訳注:ウィントンはトランペット吹き)。トランペットの2番奏者と3番奏者は、リズムを下支えするパートを吹くこともある。スネアドラムで演奏するような音型なんだけれど、実際にトランペットが吹いているんだ(CD71曲目)。 

 

ジャズバンドでは、トランペットは、全員をリードする楽器だ。トランペットの1番奏者は、常にメロディ、2番奏者は1番奏者のメロディの周りをまとわりつくように、ハモリをインプロバイズする。他の楽器を演奏する時にも言えることだけれど、大切なのは、聴くこと!何を?リズムにどう解釈をくわえてゆくかを!それと、それをキープして音楽の会話を続けてゆくこと!ジャズでは、お互い語り合う、これをしなければいけない。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

14.As with other instruments in jazz, it's important for you to listen to how we interpret the rhythms a different way and carry on a musical conversationジャズの他の楽器にも言えることだが君にとってリズムを異なる方法で解釈して音楽での会話を続けることは大切なことだ:仮主語(it's) 不定詞(to listen carry) 関係詞(how) 

 

吹奏楽では、クラリネット、フルート、ピッコロは、他の楽器よりも高い音域で、メインのメロディを吹いたり、あるいは、そのメロディを、華やかな高い音で飾りつけをしたりもする(CD72曲目) 

 

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ジャズ音楽でも、クラリネットは同じことをする。メロディを一緒に吹いて補強したり、高い華やかな音で飾りつけをしたりね(CD73曲目)。 

 

吹奏楽では、トロンボーンは、他の楽器よりも低めの音域で、音符の長さも長めのメロディを吹く。これは対旋律というんだ。なぜ「対旋律」というか。旋律と一緒に動くけれど、相対するキャラを持っていて区別される、つまり相対する旋律、で、対旋律と言うんだ(CD74曲目) 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

旋律:melody 対旋律:counter-melody 

counter-とは、英単語の「部品」で、「反対の」とか「反撃」といった意味を、単語に与える 

 

トロンボーンはリズムを吹くこともある。お馴染の「ズンチャ」の「チャ」の部分を、変形させて吹く(CD75曲目)。 

 

その低く同じ対旋律を、ジャズバンドのトロンボーン奏者は、グリッサンドをつけたり(上下に滑るような吹き方)、唸り声のような音色をつけたりする。自分のパートをどう発信していくかは、その奏者に任されている。なので、何を吹くにしても、他のパートもインプロバイズしているわけだから、それと協調することが、とても大事だ(CD76曲目)。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

15.Now, it's up to the trombonist to choose how to interpret his part, and it's very important that whatever he plays works with all of the other improvised partsさて彼の受け持ち部分をどの様な解釈の方法を選ぶかはトロンボーン奏者次第であり、彼が何を演奏するにしてもそれは他のインプロバイズされた楽器の受け持ち部分と機能が合わさることがとても重要だ:仮主語(it's) 不定詞(to choose) 疑問詞+不定詞(how to interpret) 関係詞+ever(whatever) 過去分詞(improvised) 

 

ジャズバンドには、大抵の場合含まれない楽器というのが、バスーンオーボエ、フレンチホルン、あるいはフルートなんかもそうだ。でも、どのような楽器で編成されるにせよ、また、その規模が大きくても小さくても、吹奏楽でもジャズバンドでも全ての楽器は二つの基本的な役割で分けられる。一つは、メロディ(旋律)や対旋律(カウンターメロディ)を演奏する役割。そしてもう一つは、リズムパートに何かしら手を加えたものを発信する役割。こういったことを聴いてもらうための演奏が、「ハイソサエティ」のニューオーリンズジャズバージョンだ(CD77曲目)。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

[p.110,7]Listen for these things in a performance of “High Society” done in the style of New Orleans jazzこれらのことをニューオーリンズジャズの形式で行われた「ハイソサエティ」の演奏の中に聴き取れ:過去分詞(done) 

 

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ニューオーリンズジャズは他の音楽とは明らかに異なっていて、聞こえ方もとても複雑、その要因は何か。インプロバイゼーションがそれだ、ともいえるかもしれないけれど、インプロバイゼーションの伝統はジャズ以前にも既にあったんだ。それはバロック音楽。今から約250年かそこら前に書かれたものだ。そして現在も、インプロバイゼーションを使う音楽の種類は沢山ある。ブルーグラスサルサ、インドの音楽「ラーガ」、等、枚挙にいとまがない。それらと、ニューオーリンスジャズとの違いは、集団でインプロバイズをすること、これなんだ。ステージ上のメンバー全員が、一緒にインプロバイズする。全員で会話をするわけだ。つまり自分以外のメンバー一人一人が何をしているのかを理解することで、共同作業として成立する。これが大事ということだ。インプロバイゼーションというのは、好き勝手に演奏する、ということじゃない。自分の考える処を音にして、それが他のプレーヤー達がインプロバイズしている所に、ピッタリとハマるようにする。そんなことが出来る選択の余地がある、というのが、インプロバイゼーションだ。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

10.What is it that makes New Orleans jazz so distinctive or sound so complex?ニューオーリンズジャズをこれ程他とは違うものにする、あるいはとても複雑に聞こえさせるものは何か?:仮主語(is it) make+O+C(makes New Orleans jazz so distinctive) make+O+原型不定詞(make New Orleans jazz sound) 11.We could say improvisation, but there was a tradition of improvisation in Baroque music, which was written some 250 or so years ago私達はインプロバイゼーションがそれだと言えるかもしれないが、インプロバイゼーションの伝統が存在したのはバロック音楽で、それは約250年かそこら前にかかれたものだ:仮定法(could say) 関係詞・非制限用法(Baroque music, which) 

 

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集団でインプロバイゼーションをする上でのテクニックを、いくつか見てゆこう。まずはグルーヴ。そう、グルーヴとは、異なるリズムが調和を保つことを言う。今日、よく耳にする音楽は、ビートがあるものが多い。でもビートとグルーヴを混同して間違えないでね。なぜなら、ビートというのは、グルーヴというものが発生している間の、ある瞬間のことを言うからなんだ。 

 

わかるかな?ビートとは、同じことが変化もほとんどなく繰り返されることを言う。さて、グルーヴしている間に出てくる異なるリズム、これらは常に変化している。おかげでジャズのドラム奏者は、同じリズムに縛られることなく、変化をつける余地が与えられるわけだ。だからニューオーリンズジャズでは、各楽器がインプロバイズしているリズムの中には、ちょっと前に触れた「一回おきに…4拍目」が、発信されているんだ(CD78曲目、79曲目)。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

15.This gives the jazz drummer musical freedom of choice, and in New Orleans jazz all of the improvised rhythms play off that second fourth beat that we talked about a little earlierこれはジャズのドラム奏者に選択の自由を与え、そしてニューオーリンズジャズでは全てのインプロバイズされたリズムは少し前に私達が話したあの一回おきに出てくる4拍目を発信する:過去分詞(improvised) 関係詞(that we talked) 

 

複数のメロディが同時に演奏される時、こういうのをポリフォニーという。これは頭が混乱する。だって普段はメロディと言うのは、一つしか鳴っていないものだからね。二つ、三つといっぺんに鳴っていたら、耳がついて行くのは実際は大変だ。二つ、三つの会話を同時に聴くようなものだ。そんなことがバンドで起きたらどうするかって?決まっているさ、後ろに座っているトランペット様を聴けばいいんだヨ!冗談はさておき、二つ、三つの会話が同時に重なり合うと混乱するけれど、ポリフォニーはこれとは違って、音楽が一層楽しくなる。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

21.This is confusing to us because we're used to hearing only one melody at a timeこれは私達にとっては混乱させられる、なぜなら私達は一回に一つだけメロディを耳にすることに慣れているからだ:現在分詞(confusing) 動名詞(hearing) **.It's like trying to listen to two or three conversation at onceそれは二つあるいは三つの会話を同時に聴こうとするようなものだ:動名詞(trying) 不定詞(to listen) 

 

各楽器の音域というものが聞き取れるようになると、ポリフォニーを聴き取るのも、うんと簡単になる。音域は、飛行機の高度みたいなものだ。複数の飛行機が同じ方向に飛ぶときに、どちらかが上に、どちらかが下になって進もうと思うなら、当然安全のために十分な距離を空けなければいけないよね。そうすることで、例えばニューヨークを一緒に離陸して、ボストンに同じ時刻に着陸する、なんてこともできるわけだ。これと同じ様に、ポリフォニーも、吹奏楽にしろジャズバンドにしろ、機能しているわけだ。楽団の中にある楽器には全て、異なる音域が与えられていて(お互いに高めだったり低めだったりする)、演奏開始から終了まで、お互い邪魔し合わず同時進行で行ける。例えば「星条旗よ永遠なれ」の、有名なピッコロのソロの処を聴いてみよう。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

[p.112,1]You know it's possible for planes to fly above and below each other, with enough distance in between for safety, of course勿論安全のために十分な間隔を取って飛行機が上と下に飛ぶことは可能だよな:仮主語(it's) 不定詞(to fly)  

 

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ポリフォニーを使うと、ピッコロ、トランペット、それからその他色々な楽器が、主だったメロディを同時に演奏しても、ちゃんと聞き分けることが出来るだろう。トロンボーンはどうかな?低い音域でもって旋律を演奏しているぞ(CD81曲目)。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

12.When we do this, we will certainly notice the piccolos, trumpets, and other instruments playing the main melody私達がこれをする時私達は確かにピッコロとトランペットと他の楽器群が主なメロディを演奏しているのに気付く:知覚動詞+O+現在分詞(notice the piccolos playing) 

 

これがポリフォニーの効果だ。これらの楽器が全部いっぺんに全然違うメロディを演奏しているのを整理整頓するのは、何せ大変な話だ。さっきの例え話。複数の飛行機がニューヨークを出発して、ボストンへ同時に、でも高度はそれぞれ別の処にとって飛んでゆく。こんな感じでバンドの中にある様々な楽器が、それぞれに音域をもって演奏しているんだ、と思い描いてみてくれ。ピッコロはうんと高い所で高度9000メートル、そしてフルートが7500メートル、で、クラリネットトロンボーン、サックスが6000メートルから4500メートルの間。トロンボーンは、大体3000メートル付近を、スライドで行ったり来たりする。この技の凄さに注目しよう。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

16.It's just hard to sort out all of those instruments playing distinctly different melodies at the same time同時に明らかに異なるメロディを演奏しているこれらの楽器全てを整理するのはとにかく大変だ:仮主語(It's) 不定詞(to sort) 現在分詞(playing) 

 

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大抵の場合、ジャズのポリフォニーでは、クラリネットは高めの音域で、動きの細かな音符を演奏する(CD82曲目)。 

 

トランペットは真ん中あたりの音域で、動きの細かさも中くらいの音符を演奏することが多い(CD83曲目)。 

 

そしてトロンボーンは音域は低めで、音符の長さも長ながめのものを、大抵は演奏する(CD84曲目)。 

 

これがちゃんと機能するためには、吹き手がリズムや音域を調和させてゆくことが大切だ。ニューオーリンズジャズバージョンの「星条旗よ永遠なれ」は、三つのパートによるポリフォニー。演奏を成功させるカギは、この吹き手たちの調和だ(CD85曲目)。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

5.In order for this to work, it's important for the musicians to coordinate the rhythms and the registersこれが機能するためにはミュージシャン達にとってリズムと音域を調和させることが重要だ:不定詞(to work) 仮主語(it's) 不定詞(to coordinate) 

 

テールゲートという吹き方がある。トロンボーンが音をスライドさせる奏法だ。ニューオーリンズジャズでは重要な隠し味だけれど、やりすぎると音楽がふざけたバカっぽいものになる恐れがある。なぜテールゲートと言うのか。大昔アメリカでは、楽隊が馬車の後部座席に乗り込んで、町中を、今の宣伝カーみたいに色々なイベントの宣伝をしていたことがあった。その時、トロンボーン吹きが全員の前方や真ん中に居たら、スライドを動かす度に他のメンバー達に当たって邪魔になるわけだ。すると他のメンバー達は、邪魔なトロンボーン吹きを、馬車の後方に座らせて、スライドを外に出すようにした。馬車の後方のことをテールゲート言う。これでわかったかな?(CD86曲目) 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

13.But the main reason they call it tailgating is because a long time ago musicians used to get on the back of a wagon and drive through the city to advertise different eventsしかし彼らがそれをテールゲートと呼ぶ理由は、大昔楽隊は馬車の後方に座って町中を走り様々なイベントを宣伝していたものだったからだ:関係詞・省略(the reason [why] they call) 過去の習慣(used to) 不定詞(to advertise) 19.So they would make him hang the slide out the back of the wagonだから彼らは彼にスライドを馬車の後方へ垂らしだすようさせたものだった:過去の習慣(would) 使役動詞+O+原型不定詞(make him hang) 

 

ミュージシャン達が演奏で「会話する」と言ったね。その最もよく使われる技法が、コールアンドレスポンスだ。第2章でコーラスフォーマットについて触れた時に話したね。実はこのコールアンドレスポンス、僕達にはお馴染のものだ。なぜか。普段こんな風に人と会話しているからさ。例えば「お前、僕の答案カンニングしただろう?」「はぁ?何でお前のデキの悪い答案なんか?」「見せてみろよ。僕の答えと同じじゃないか?」「そりゃそうかも知れないわな。お前がカンニングしたってならな。ていうか、何で僕がお前の答案なんかカンニングするよ?お前今年全部片っ端から赤点じゃないか」これがコールアンドレスポンス。「♩♪♪♩♩*♩♩」のリズム(髭剃りとカット25セント)みたいだ。ジャズでは、コールアンドレスポンスは楽器同士の間で、いつでも行われる。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

[p.114,12]We might have the same answers, if you copied off of meもし君が私のを写したなら私達は同じ回答を持つかもしれない:仮定法過去(might have if you copied) 

 

(114ページ) 

 

同じフレーズを繰り返し演奏することがある。第2章で触れたね。グルーヴする上で重要だ。道路標識みたいなものかな。「ミネアポリス150マイル」「ミネアポリス100マイル」「ミネアポリス50マイル」ミネアポリスに近づくにつれて、そこまでの距離を示すために等間隔で設置してあるこれらの標識。旅行中に見たことあるだろう?長時間道路を走っても、全然一つも道路標識を見かけないと、「道に迷ってしまったかな?」と心配になってくるんじゃないかな。道路標識と同じように、リフも等間隔に聞こえてきて、今は曲のどのあたりを聴いているのか、が分かって安心感も生まれる(CD88曲目) 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

22.You know, when you're traveling somewhere, you see “Minneapolis 150 miles,” “Minneapolis 100 miles,” “Minneapolis 50 miles” - you get closer and closer to Minneapolis, and the road sign appears at regular intervals to let you know thatいいか、君がどこかへ旅行をしているとき君は「ミネアポリス150マイル」「ミネアポリス100マイル」「ミネアポリス50マイル」を見る。君はミネアポリスへだんだん近づいてゆく、そして道路標識は君にそれを知らせるために等間隔で現れる:比較級+比較級(closer and closer) 不定詞/使役動詞+O+原型不定詞(to let you know)  

 

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ジャズの作品を演奏する時、途中突然演奏が一斉に止まると、ソロ楽器が一人だけ飛び出して、そしてまた全体での演奏に戻る、ということがある。これをブレイクという。ブレイク、というのは、こんな感じだ:君はサーカスの空中ブランコの演技を見に行ったことはあるかい?これって、まず「受け手」といって、ブランコのバーに足を掛けるなどして、振り子のように動いている二人と、もう一人、その二人の間を飛んで行ったり来たりして、その飛んでいる間に空中で宙返りだのスピンだの、色々な技を見せるショーだよね。そう、音楽の「ブレイク」は、そんな感じ。飛ぶ人が空中で演技する瞬間に例えられる。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

4.And a break is just like - have you ever been to the circus and seen a trapeze act?そしてブレイクとはこんな感じ - 君はサーカスに行って空中ブランコの演技をみたことはあるか:現在完了(have you ever been seen)  

 

ま、ブランコに例えるだけに、まずはバンドと一緒にスウィング(振り子運動)して、次に一人で飛び出し、いわゆる「ソロ」というやつだ、そしてもう一度再びブレイクの終わりで、バンドと一緒に「スウィング」する。実際ブレイクしている間中は、バンドと一緒の時のスウィング感を保つことになるんだ。そうでなければブレイクの後、バンドの中に居場所がなくなってしまう。空中ブランコでも全く同じだ。飛ぶ人と受け手が息を合わせ続けなければ、飛ぶ人は落ちて、救助ネットへ真っ逆さまだ。ソリストがブレイクで思い切ったジャンプを見せて、再び全体演奏にピタッとハマる。この時ジャズ音楽は、最高潮に盛り上がって楽しくなる(CD89曲目)。 

 

ニューオーリンズジャズのスタンダード「ウーピンブルース」。この一曲に、グル―ヴ、ポリフォニー、リフ、トロンボーンのテールゲート奏法、そしてコールアンドレスポンスが、しっかり詰まっているぞ(CD90曲目)。 

 

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ルイ・アームストロング 

 

ルイ・アームストロングには、良く知られているニックネームが、一つではなく二つもあります。まず言われるのが「サッチモ」。これは「サッチェルマウス」の略です。アームストロングの唇が、大きくて強靭であったことから、まるでカバンの口のようだ、ということからついたニックネームです。ミュージシャン達は、どちらかというと、「ポップス」と呼ぶことが多いようです。音楽の世界に残した足跡への敬意を表して、の愛称です。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

2.Some people referred to him as Satchmo, short for Satchel Mouth, because he had such large and strong lips that they said his mouth looked like a satchel一部の人達は彼のことをサッチモ、すなわちサッチェルマウスの略称で呼ぶ。なぜなら彼の唇はあまりにも大きくて頑丈なので人々は彼の口はカバンの様だと言った:such ~ that 節(such large strong lips that)  

 

アームストロングは1901年8月4日生まれ。出身地のジェーン横丁は、ルイジアナ州ニューオーリンズの中でも治安が最悪な地区の一つでした。貧しい中で育ったものの、偉大なミュージシャン達と同じ時代に生きる幸運に恵まれたのです。ジャズがニューオーリンズで生まれたとされるのが、アームストロングが生まれる数年前。伝説のコルネット奏者バディ・ボールデンによる、とされています。生前アームストロングが、よく「ジャズと共に私は大人になっていった」と言う所以です。アームストロングは、バディ・ボールデンの演奏を生で聴く機会はありませんでした。しかしボールデンの流れは、後に続いたミュージシャン達へ受け継がれていったのです。それがバンク・ジョンソン、バディ・プティ、フレディ・ケッパート、そしてアームストロングのメンターであるジョー・オリバーなのです。 

 

アームストロングは10代半ばごろ、独立記念日の祝祭が開かれている最中に、火薬入りのモデルガンを発砲して警察に捕まってしまいます。しかしこの災いが、後に福に転じます。アームストロングは収容された少年院で、ピーター・デイビスという先生にコルネットを習うことになったのです。優れた音楽の才能に恵まれたアームストロングは、少年院のバンドでバスドラム奏者からスタートし、見る見るうちに主席のビューグル奏者、コルネット奏者になってゆきました。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

16.That proved to be providential, because in the segregated boy's home to which he was sent he was taught to play the cornet by Professor Peter Davisそれは幸運なこと鳴った、なぜなら彼が送られた少年を隔離する施設で彼はピーター・デイビス先生からコルネットの演奏を教えられたからだ:不定詞(to be) 前置詞+関係詞(to which)  

 

少年院を退所するにあたり、アームストロングはミュージシャンとして生きてゆく決心をします。10代も終わりの頃でした。演奏活動の場は、野外パレードやクラブでのバンド、ミシシッピ川ニューオーリンズ北部を行く中・長距離ツアー用スチームボートの船上バンドでした。当時ニューオーリンズは、新興音楽だったジャズの町として、多くの名手達が活動の拠点としていました。アームストロングは、こうした先輩である名手達から技を教わり、やがて肩を並べるプレーヤーとして一目置かれるようになってゆきました。アームストロングは、ジョー・オリバーというコルネット/トランペットの大家の一番弟子であり、師と崇めたジョー・オリバーが率いる名門・キング・オリバーズ・クレオールジャズバンドの、第2コルネット奏者となったのです。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

20.On leaving the boy's home in his late teens, Armstrong took up the life of a musician10代後半に少年の家を離れるにあたり、アームストロングはミュージシャンの人生を選択した:動名詞(leaving) 

 

(117ページ) 

 

かつては、吹奏楽のコンサートで最も人気があったのは、コルネット奏者のソロ演奏だった。ジュール・レヴィ、ハーバード・L・クラーク、そしてマシュー・オーバクルといった奏者達が、超絶技巧を披露して有名になっていった。例えば、ダブルタンギングやトリプルタンギング、バイオリン並みのハイトーン、楽器を二つ三つといっぺんに口に当てて吹いたりとかね。こういった人達は、独自のサウンドを持ち、性格も独特な、時に発言もスケールのデカい人物だったんだ。実際に在った話なんだけれど、「コルネット奏者 名人対決」と銘打ったコンサートが開かれた。出演した二人であるマシュー・オーバクルとジュール・レヴィは、楽器を「吹く」のを途中でやめてしまい、何と文字通り相手をパンチで「吹っ飛ばし合って」しまったんだって!「吹っ飛ばし合い」のことはともかく、こういった名人達が駆使した技術は、トランペットの奏法を確立して、それは今でも使われているんだ。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

5.Things like double and triple tonguing and high notes that make the trumpet sound like a violin or two or three horns at one timeダブルタンギングやトリプルタンギング、トランペットがバイオリンのように聞こえさせる高い音、いっぺんに二つや三つの楽器を演奏する、といったこと:関係詞(that) 使役動詞+O+原型不定詞(that make the trumpet sound) 

 

ジャズというものを発明した人は、バディ・ボールデン。少なくとも、そう言われている。バディ・ボールデンは、ジュール・レヴィとマシュー・オーバクルの流れを引き継いだソロコルネット奏者だった。とはいえ、ボールデン自身の上手さは、そのサウンドの持つ個性の中に光っていたそうだ。これはつまり、人の声の様な効果を音に出す技術。例えば泣いたり、笑ったり、呻いたりするような音色を鳴らして見せた、とかね。それから、創る出すフレーズにしても、人々の記憶に残るような、一方でシンコペーションをかける時にも、ちゃんと美しくスタイリッシュな方法でこなしてゆく、そんな音楽を創り出していった、とのことだ。ボールデンの音とても良く響き渡り、降りしきる雨粒を空中に止めてしまう程だった、なんて逸話があるくらいだ。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

22.They say he could play so loud that he could make the rain actually stay in the sky人々が言うには彼はとても大きく響く音を吹くことが出来たので、彼は雨を空中に釘付けにすることが出来た:so ~ that 節(so loud that he could) 使役動詞+O+原型不定詞(make the rain stauy) 

 

残念なことに、バディ・ボールデンの演奏録音は全く残されていないんだ。でもね、ルイ・アームストロングと言って、ボールデンの流れを受け継いだトランペット奏者がいて、この人の録音が、今日聞くことができるんだ。ルイ・アームストロングがは、録音が残っているソロ奏者の中では、最も初期の、そして最も偉大な演奏家だ。アームストロングがソロをインプロバイズする時は、初めから終わりまで全て、関連性のあるフレーズを巧みにつなぎ合わせていった、というんだ。長めのソロを演奏する時、一番大変なのが、ポイントがブレないようにし続けることだ。人に何か話そうとする時と丁度良く似ている。ほら、長く話そうと思うと、どうしても話がひたすら取り留めもなくなってしまうだろう。ルイ・アームストロングの吹き方は、ジャズトランペット奏法のお手本だ。音色は丸く、演奏に当たっては、熱い気持ちと強いイメージを持ち、そしてソロは、筋がしっかり通っていて、インプロバイズされているにもかかわらず、まるで予め楽譜に書いておいたのを吹いているのではないか?と思わせるほどだ。これらを余すところなく聞けるのが、アームストロング作曲の「コルネット・チョップ・スーイ」。この演奏を聞いてみよう(CD91曲目)。 

 

27.He improvised full solos with related phrases strung together彼はソロ全体を関係するフレーズがお互いにつなげられた状態でインプロバイズした:分詞構文/過去分詞(with  

related phrases strung) [p.118,1]You know, the longer you talk, the more you have a tendency to just ramble on and on分かるだろう、より長く話すとひたすらとめどなく次から次へとしゃべる傾向を持つ:the比較級,the 比較級(the longer the more) 不定詞(to 

ramble) 

 

(118ページ) 

 

この章では、吹奏楽の奏法がニューオーリンズジャズに、どのように影響を与えていったのかについて、見てきた。このことを通して、一見共通点なんか何もない、と思われる物同士でも、よく見てみれば似ているところがとてもあるものだ、ということが分かってもらえたんじゃないかな。ではこのことを、演奏を聴いて実感していただこう。この本の付録CDに収録されている、何と世界初の試み!スーザ作曲の「マンハッタンビーチ・マーチ」の、吹奏楽とジャズバンドのコラボ演奏だ(CD92曲目)。 

 

(語句・文法の要点:数字は行数) 

10.In this chapter we've seen how the tradition of wind band playing influenced New Orleans jazzこの章で私達は吹奏楽演奏の伝統がニューオーリンズジャズにどのように影響したかについて見た:現在完了(we've seen) 関係詞(how) 動名詞(playing) 12.I hope this shows you how things that may seem different at first can actually be quite similar when you take a closer look私が望むのはこのことが君に一見異なるように見える物事が実はよく見てみるととても似ているということを示していることだ:関係詞(how that) 条件節(when) 

 

 

 

これで本編は終わりました。 

 

次回、第13回は、鑑賞の手引きとして、ここまで途中途中にでてきた、作曲家の生い立ちの説明等の、詳しい続きを見てゆきます。