愉快な名指揮者、リッカルド・ムーティ(Riccardo Muti)が、2011年のビルギット・ニルソン賞(The Birgit Nilsson Prize)受賞記念スピーチからの抜粋です。
どうしたら人々は仲良く共存できる?オーケストラや合唱は、世の中の縮図。答えはそこにある。だから音楽教育は絶対必要なんだ。
ムーティはスピーチの際ユーモアを交えることが多く、このスクリプトでは省略しましたが、前半4分ほどはお笑いの連発でした。
ジャンルを超えて、「ミュージシャン」の皆さんに共有していただきたい名スピーチです。イタリア人の彼にとっては英語は母語ではありませんので、ご了承のほど・・・
ネットで検索して、映像と合わせて御覧ください(本スクリプトはスピーチの後半のみ)
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Music is extremely important. Education in music is essential, fundamental. Why?
音楽はとても大事です。音楽教育は無くてはならないし、教育の基本です。なぜか?
Not because we are to make miserable life of our children, with the small flute them out, and play every morning “TEE-TE-TEE-TE・・・”
別に、子供達が惨めな生活を送っているからといって、何とかしてやろうと思い、小さな笛を持ち出して、毎朝「ピーヒャラピーヒャラ」吹こうってわけではありません。
(make+O+C OをCにしてしまう)
Because we teach music: we teach poison in that way, and we alienate people from music.
私達は音楽を教えるのです。これでは台無し、みんな音楽から遠ざかってしまいます。
What is important is to teach the young boys and girls in the modern society that, in orchestra, a symphonic orchestra, or a chorus, is the symbol of a society; how a society should work and stay together.
大事なのは、今時の男の子達や女の子達に、楽団、オーケストラや合唱団というのは、社会の縮図であり、社会がどうやって動いているか、どうやって人々が仲良くやってゆくのかを、象徴している、そんなことを教えてやることです。
(what is important is:関係代名詞のwhat)
Because we've seen that now, with the Royal Orchestra, the Royal Opera Orchestra. And I want to thank them and also the soprano and the chorus that we are seeing later, and Maestro (Gianandrea) Noseda, my colleague, for what they are doing tonight for this occasion.
見たことありますでしょ、今日はここに、王立管弦楽団、えっと王立歌劇場管弦楽団、彼らとソプラノ独唱の方、それから合唱団の皆さん、そして私の仲間でもあります指揮者のノセダさん、今夜この良き日に、これから聞かせていただきます皆さんに、お礼を申し上げたいと思います。
(what we are seeing / what they are doing ごく近い未来を表す現在進行形)
But as I was saying that in an orchestra you see the violin, viola, cello, contrabass, flute, oboe, clarinet, trombone, fagott, percussion...
さて、先程も言いましたように、オーケストラには楽器が色々あります。バイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバス、フルート、クラリネット、トロンボーン、ファゴット、打楽器・・・
And in a score they are altogether written there in the page of the score.
そしてスコアを見ますと、こういった楽器が、同じページに一緒に書かれているのです。
Everyone has a different line, and all the lines should... SHOULD! ― because sometimes they don't ― go together and play together.
各楽器はそれぞれに五線が与えられていて、いずれも必ず・・・「必ず」です!こう言っておかないと、時々そうならないことがありましてね。足並みをそろえて、演奏しなければなりません。
And every player knows that his freedom must exist, but should not stop or damage the freedom of the other player.
そして各奏者は、自分の自由について、確保はされるけれど、決して他の奏者の自由を遮ったり損ねたりしてはいけないことを、よく自覚しています。
But all the players, together in their freedom and expressing their feelings, they all must work in one direction; that is, HARMONY.
その中で、奏者全員が一つになって、各自の自由が保証され、思いの丈を表現し、そして全員が一つになって向かう先にあるもの、それが「ハーモニー」(調和/和音)です。
(expressing their feelings:分詞構文)
When children learn to stay together and to have this concept of the good and harmony that must be equal for everybody, then they learn how to stay together in a society.
子供達が、一緒に過ごすとか、良い関係とか調和の取れた関係とか、それが皆に平等でなければならないとか、そういう物の考え方を身につければ、そうすれば彼らは社会でどう共存してゆくか、ということが分かってくるのです。
(learn to stay : ~できるようになる)
I'm trying to say to insist on this subject since... forty years, and, uh... so, I'm sure that even if conductors are... they sometimes think that they are God, I know that I don't have another forty years in front of me.
私はこれは大事なことなんだ、と、ずっと言おうとしてきているんです、40年も。当然のことながら、仮に指揮者というものが・・・時々自分達のことを神様だと錯覚したりもしますが、まあ、私もまた更に40年も生きられるとは思ってませんけどね。
Or maybe? I don't know.
それとも生きられるかって?それはわかりません。
And if I have it, I will insist in this concept.
もし生きられたら、これからもこの考え方を訴え続けますよ。
And then music doesn't know barriers.
そして、音楽には人との間を隔てる壁などありません。
When we go to different countries, we have our musicians play together with the musicians of the towns, of the cities that we visit.
海外公演にゆけば、オーケストラのメンバー達は、その国で訪れる街や都市の演奏家達と一緒に演奏します。
(訳注:ゲスト出演のご当地プレーヤーや、現地で手配するエキストラ奏者達のこと)
And they sit together. They don't know their names. They don't know (that) they have different culture, they speak different languages, they belong, sometimes or many times, to different religions, they have different colors in their skin.
彼らは舞台で席を同じくします。名前を知らない者同士です、文化が違うことも知らない、言葉が違うことも知らない、時々、もしかしたら多くの場合、宗教が違うことも知らない、肌の色が違うことも知らない。
But everything disappears because they have the same heart and the heart starts to beat in the same way, for everybody, in everybody, and they play and they sing together.
でも、そんなものは全部吹き飛んでしまいます。なぜなら、私達人間は同じ心臓を持っていて、心臓は同じように脈打つものですから。一人一人にそれはあり、一人一人の中でそれは息づくのです。そうやって集まったメンバー達が、一緒に楽器を演奏したり、一緒に歌を歌ったりするのです。
(訳注:心臓を持つ/脈打つ → heart→思いを持つ/高揚感を覚える)
This is the reason why I am worried about the future because Europe is forgetting the importance of our culture, our tradition, our history.
そう考えると、私は未来が不安でならない。なぜなら、ヨーロッパは自分達の文化、伝統、歴史の大切さを、忘れつつあるからです。
We are today what we have been. And we will be what we are today.
私達の今は過去の積み重ねの結果であり、私達の未来は今の在り方次第です。
So music and culture are parts extremely important of the history of Europe.
ですから、音楽と文化は、ヨーロッパの歴史にとって非常に重要なのです。
So I take this opportunity from the stage of this prestigious opera house in front of the Kings, in front of all the authorities to send a message that certainly was a message that Birgit Nilsson sent in all the years of her musical life.
この機会をいただき、この最高の歌劇場の舞台の上から、スウェーデン王室の皆様と財団関係者の皆様の前で、ビルギット・ニルソンが、彼女の音楽人生を通して訴え続けたに違いないメッセージを捧げます。
Let's help the new generations toward good future. And one of the weapons is music and culture.
これからの新しい世代の人々を助けよう。そしてそのための武器の一つが、音楽であり、文化なのだ。
This is what I want to say in this moment. And I will not say anything else because when I go to this subject I feel really sad because it seems that our Europe is losing little by little certain values.
私が今申し上げたいことは以上です。これ以上は申しません。なぜなら、この話に入っていくと、本当に泣きたくなります。我々ヨーロッパ人は、ある種かけがえのないものを、今も少しずつ失っているからです。
And music can help. GLACCHE!
そこで役立つのが、音楽というわけです。グラッチェ(ありがとうございました)!